築35年の家の耐震補強と制振工事|二世帯住宅リノベーション②

設計から施工まで一貫して担当する建築クリエーターと、住まいを長く活かすための性能向上
築35年の住宅を、三世代が暮らす二世帯住宅へと再生するリノベーション。
第1回では、お父様がこだわって建てた家の面影を残しながら、これからの暮らしに合わせて間取りや性能を見直す計画をご紹介しました。
今回は、解体して見えてきた建物の状態と、耐震・制振工事の様子をご紹介します。
また、設計を担当した建築クリエーターが、職人と相談しながら工事を進める様子もお伝えします。
解体して初めてわかる、築35年の家の状態
今回のリノベーションでは、続き間の和室を子世帯のLDKへと変更するなど、1階の間取りを大きく見直します。
内装の解体が進むと、これまで壁や床に隠れていた柱や梁、土台など、建物の構造が見えてきました。


既存住宅のリノベーションでは、事前に調査を行っていても、解体して初めて確認できる部分があります。
今回も、解体後に木部の一部でシロアリによる被害が確認されました。

シロアリ被害の可能性は計画段階から想定しており、傷んだ木部の交換は当初から工事に含めていました。
また、防蟻処理についても、契約前の資金計画でオプション工事としてご案内し、解体後に被害状況を確認してから実施を判断する予定としていました。
実際に被害が確認されたため、お客様にも現場の状況をご覧いただきました。
被害の様子を目の当たりにすると、これから長く住み続けるうえでの不安も出てきます。
改めて防蟻処理の内容と追加費用をご説明し、お客様のご判断で建物全体の防蟻処理を行うことになりました。
リノベーションでは、計画段階で想定できることと、解体後の状態を見て初めて判断できることがあります。
だからこそ、あらかじめ考えられるリスクや費用をお伝えし、実際の建物の状態を確認しながら、お客様と一緒に必要な工事を考えていくことが大切だと思います。
設計した建築クリエーターが、現場でも考え続ける
あすなろ設計事務所では、設計を担当した建築クリエーターが、そのまま施工管理まで一貫して担当しています。
既存住宅のリノベーションでは、新築と違い、すべてが図面どおりに進むとは限りません。
既存の柱や梁、壁の下地、設備の配管や配線など、実際の現場を確認しながら細かな調整が必要になることもあります。

写真は、建築クリエーターと電気業者が、壁の下地の入り方や配線ルートについて確認している様子です。
電気配線は完成すると壁や天井の中に隠れてしまいますが、既存の構造や新しく設ける下地との関係を考えながら施工する必要があります。
こうした現場での確認や打合せは、日々の工事の中で繰り返し行われています。
私たちが設計から施工まで一貫して担当する理由の一つは、ここにあります。
建築クリエーターは、設計段階からお客様と打合せを重ね、ご要望や暮らし方、ご予算、そして何を大切にしたいのかを理解しています。
その担当者が現場にも直接関わることで、設計の意図を職人と共有し、状況に合わせた細やかな対応がしやすくなります。
もちろん、工事内容や費用に変更が必要になれば、お客様と相談して判断します。
図面をつくって終わりではなく、現場でも考え続けること。
一つひとつは小さな確認や調整かもしれませんが、その積み重ねが施工の品質につながると考えています。
築35年の家の耐震補強|評点0.21から1.1へ
今回の築35年の家の耐震補強は、二世帯住宅への間取り変更とあわせて計画しました。
補強前の1階部分の上部構造評点は、0.21でした。
上部構造評点とは、木造住宅の耐震性を数値で表したもので、1.0以上1.5未満は「一応倒壊しない」と判定されます。
今回の住宅では、特に1階を中心に、筋交いや構造用合板、補強金物などを使って耐震性を高める計画としました。


耐震補強では、ただ壁を増やして強くすればよいわけではありません 。
例えば、耐力壁の配置が偏っていると、地震の際に建物がねじれるように揺れることがあります。
今回も、既存の間取りや壁の配置バランスなどを考慮しながら、補強計画を検討しました。
その結果、補強計画上の1階部分の上部構造評点は、0.21から1.1へと向上しました。
2階についても、大規模な改修にならない範囲で、できる限り耐震性を高める補強を行っています。
※1.1という数値は1階部分の上部構造評点であり、建物全体の評点を示すものではありません。
既存住宅では、間取りや構造、ご予算などの条件によって、できる補強の範囲も異なります。
大切なのは、その家の状態を把握し、暮らしやすさとのバランスも考えながら、必要な補強を計画することです。
耐震に制振をプラス。MER SYSTEMを16基設置
今回の住宅では、耐震補強に加えて、日本制震システム株式会社の制振装置「MER SYSTEM」を16基設置しました。

「耐震補強をしているのに、なぜ制振装置も必要なのでしょうか?」
耐震は、柱や壁などを補強して、地震の力に抵抗できるようにすることです。
制振は、建物に取り付けた装置によって揺れのエネルギーを吸収し、建物の変形や損傷を抑えることを目的としています。
今回の住宅では、既存の間取りや構造の制約から、耐震補強だけで大幅に耐力を高めることは難しいと考えていました。
また、地震は一度だけとは限りません。
大きな地震で建物が傷んだ状態のまま、次の強い揺れを受けることも考えられます。
耐震補強によって倒壊の危険を減らすことを基本としながら、繰り返す地震による建物への負担もできるだけ減らしたい。
そこで、耐震補強に加えて制振装置をご提案しました。
設置にあたっては、耐震診断の結果などをメーカーと共有し、建物に合わせた設置数と配置を検討してもらいました。
その提案に基づいて、今回は16基のMER SYSTEMを設置しています。

もう一つ、制振装置をおすすめした理由があります。
今回のお住まいは、お父様が素材や造りにこだわって建てられた、とても立派な住宅です。
築35年を経ても、まだまだ活かせる部分がたくさんあります。
せっかくその建物を残してリノベーションするのであれば、今回の工事を終えたあとも、できるだけ長く住み続けていただきたい。
そんな想いもあり、耐震補強と制振装置を組み合わせた工事を計画しました。
もちろん、制振装置を取り付ければ、どんな地震でも建物が傷まなくなるわけではありません。
まずは必要な耐震補強を行い、そのうえで地震による建物への負担を少しでも減らしていく。
それが、今回の住宅で「耐震+制振」を選んだ理由です。
※耐震と制振の違いや、繰り返す地震への備えについては、「木造住宅の地震対策②|耐震に制振をプラスする理由」でも詳しくご紹介しています。
完成すると見えなくなる部分こそ、大切にしたい
解体後に確認された建物の傷み、職人との現場打合せ、耐震補強や制振装置の設置。
今回ご紹介した工事の多くは、内装が仕上がると見えなくなる部分です。
リノベーションというと、間取りやデザインがどのように変わるのかに目が向きやすいと思います。
もちろん、それも大きな楽しみの一つです。
でも、今ある建物を活かして、これからも長く暮らしていくためには、見えなくなる部分にもしっかり手を入れることが大切です。
そして、その家の状態を見極めながら、お客様のご要望やご予算も踏まえて、何が必要なのかを考えること。
住まいという大切な資産と、そこで続いていく家族の暮らしを守ることも、私たちが設計から施工まで一貫して関わる理由の一つです。
次回は、断熱改修と大工工事の様子をご紹介します。
既存の建物ならではの大工の工夫や、お父様がこだわって建てた家の木部をどのように活かしていくのか。
新しい暮らしの空間が、少しずつ形になっていきます。
完成すると見えなくなる耐震・制振の仕組みを、実際に見てみませんか?
藤枝リノベーション展示場は、築41年の木造住宅をリノベーションした建物です。
展示場では、実際に設置された制振装置をご覧いただけるほか、地震の揺れと建物の関係を確認できる共振実験模型もご用意しています。
「今の家でも、耐震性を高められるの?」
「耐震と制振は、何が違うの?」
「どこまで工事をするのが良いのだろう?」
そんな疑問があれば、ぜひ見学の際にお聞かせください。
完成した空間だけでなく、これから長く暮らすための性能向上についても、実物や資料を見ながらご説明いたします。
