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シニアシェアハウスで失敗しない物件選び|COCO静岡の実例と建築の注意点

  • 22 時間前
  • 読了時間: 16分
木の温もりを感じるシニアシェアハウスCOCO静岡の共用リビング・ダイニング・キッチン
COCO静岡 交流スペース兼ダイニングキッチン

空き家や中古住宅を活用して、シニアが安心して暮らせるシェアハウスを始めたい。地域に役立つ事業として、シニア向け住宅やグループホームを検討している方もいるのではないでしょうか。


しかし、物件価格が安く、部屋数を確保できそうだからといって、その建物が事業に適しているとは限りません。物件を契約した後に、耐震工事や水回りの増設、消防設備、避難計画などの問題が分かり、想定以上の改修費が必要になることがあります。


あすなろ設計事務所では、シニアシェアハウス「COCO静岡」の計画・改修・運営に実際に取り組んできました。本記事では、その経験をもとに、シニアシェアハウスの物件選びで見落としやすい点と、契約前に確認しておきたい建築上の注意点をお伝えします。



<この記事で分かること>

 ・シニアシェアハウスに向く立地と物件

 ・契約前に確認したい建築・法令上の問題

 ・COCO静岡で実際に発生した費用・工程への影響

 ・物件契約前に建築会社へ相談するメリット



<目次>




1.安い物件がシニアシェアハウスに向いているとは限らない


シニアシェアハウスに生まれ変わった大きい空き家
COCO静岡外観

シニアシェアハウスの物件を探す際、購入価格の安さは大きな魅力です。物件取得費を抑えられれば、その分を耐震性や断熱性、水回り、段差の解消など、入居者が安心して暮らすための改修費用に充てられます。そのため、安い物件であること自体が悪いわけではありません。


ただし、価格が安い物件には、生活に不便なエリアにある、築年数が古い、建物の劣化が進んでいるなど、安いなりの理由があることも少なくありません。


COCO静岡が想定する入居者像


COCO静岡では、入居対象を60歳以上としていますが、実際の入居者像としては、80歳前後の比較的自立した方が最も現実的だと感じています。


一人暮らしを続けることにご家族は不安を感じているものの、ご本人はまだ介護施設には入りたくない。そのような方にとって、シニアシェアハウスは、一人暮らしと介護施設の中間にある住まいの選択肢になります。


実際にCOCO静岡では、86歳の方が施設ではなくシェアハウスを選んで暮らしています。また、施設への入所を経験した92歳の方からも見学の相談がありました。


建物の外にある暮らしも考える


入居者の中には、自分で車を運転して自由に出掛けられる方もいますが、将来的に車を手放す可能性まで考えると、徒歩や公共交通機関で生活できる立地が重要になります。


シニアの暮らしは、建物の中だけで完結するものではありません。スーパーやドラッグストア、コンビニ、バス停が近くにあることは、日々の暮らしを支える大きな利点です。


公民館や商業施設へ出掛けたり、バスに乗って外出したりすることも、健康で自立した生活を続けるために大切だと考えています。


庭と駐車場はどの程度必要か


一方で、広い庭や多くの駐車スペースが必ずしも必要とは限りません。


COCO静岡では、暮らしのサポーターとして入居する方など、一部の入居者のみが車を所有する想定としています。そのほかに、パートスタッフやご家族の来訪用を含め、3台程度の駐車スペースがあれば対応できると考えています。


庭についても、大きな庭を維持するより、お花が好きな方が楽しめる小さな花壇がある程度の方が、管理の負担も少なく現実的です。


物件価格だけで判断しない


物件選びでは、土地と建物の価格だけでなく、立地、築年数、建物の状態、必要な改修費、想定する入居者の年齢や暮らし方まで含めて考える必要があります。


安く購入できるかではなく、改修後にどのような暮らしを提供できるか。その全体のバランスを見極めることが、シニアシェアハウス事業の重要な第一歩です。



2.物件契約後に発覚しやすい建築・法令上の問題


減築の様子
減築の様子

シニアシェアハウスでは、入居者が安心して暮らせる建物であることが欠かせません。建物の安全性は、入居を検討するご本人だけでなく、ご家族も特に関心を持つ部分です。

物件を購入してから問題が分かると、改修費の増加や計画変更につながります。特に、物件契約前に確認しておきたいのが、耐震性、建物用途、消防設備の3点です。


2000年以前の木造建物は耐震性を確認する


COCO静岡が、新耐震基準で建てられた重量鉄骨造の建物であったことは、耐震面の大きな安心材料でした。


一方、木造住宅を活用する場合は、新耐震基準の建物であっても、建築された年代や構造を確認する必要があります。


2000年(平成12年)には、木造住宅の接合部や耐力壁の配置などに関する仕様が明確化されました。国土交通省も、2000年以前に建てられた新耐震基準の木造住宅を中心に、接合部などの状態を確認することを推奨しています。


あすなろ設計事務所では、2000年以前に建てられた木造物件をシニアシェアハウスへ活用する場合、原則として耐震性を確認する方針としています。


入居者が高齢になるほど、災害時に素早く避難することが難しくなる可能性があります。室内をきれいに改修するだけではなく、建物自体の安全性を確認しておくことが重要です。


住宅から寄宿舎への用途変更に注意する


シニアシェアハウスでは、一戸建て住宅として建てられた物件を活用するケースが多いと思います。


しかし、複数の入居者がそれぞれ個室を使い、台所や浴室などを共同で利用する場合は、利用実態によって、建築基準法上の「寄宿舎」として扱われることがあります。


寄宿舎などの特殊建築物へ用途変更する部分の床面積の合計が200㎡以下であれば、用途変更に伴う建築確認申請は原則として不要です。ただし、確認申請が不要だからといって、寄宿舎として必要な建築基準を守らなくてよいわけではありません。建築基準法や消防法への適合は、確認申請の要否にかかわらず必要です。


COCO静岡は、購入を検討した時点では延べ面積が少しだけ200㎡を超えていました。そのため、物件を購入する前に静岡市へ相談し、200㎡以下となるように建物の一部を減築する計画を立ててから購入しました。


物件を購入してから用途変更の問題に気付くと、間取りや事業計画そのものを見直さなければならない可能性があります。


面積だけで判断せず、どのような人が、どのような形で暮らす建物なのかを行政へ説明し、事前に確認することが大切です。


消防設備と避難経路は購入前に確認する


建築確認申請が不要な場合でも、消防法への対応は必要です。


シニアシェアハウスに必要な消防設備は、建物の規模や階数、入居人数、間取り、運営方法などによって変わります。消火器や住宅用火災警報器だけではなく、自動火災報知設備や誘導灯などの設置が必要になる場合もあります。


また、設備を設置するだけでなく、高齢の入居者が火災時に安全に避難できる経路を確保することも重要です。


物件を購入し、間取りを決めた後に消防署へ相談すると、消防設備の追加や避難経路の変更によって、改修費や工期が増える可能性があります。


建築行政と同じように、候補物件を検討する段階で、運営内容を示して消防署へ相談することが重要です。


利用する制度によって必要な基準が変わる


シニアシェアハウスと、認知症高齢者や障がいのある方を対象としたグループホームは、個室と共用部分を設けて共同生活をする点では似ています。


しかし、認知症グループホームは介護保険制度に基づく「認知症対応型共同生活介護」、障がい者グループホームは障害福祉サービスに基づく「共同生活援助」として運営されます。一般的なシニアシェアハウスとは異なる人員・設備・運営上の基準があります。


また、COCO静岡のように居住サポート住宅の認定を受け、改修補助の利用を考える場合にも、住宅の面積や設備、入居後の支援体制など、制度固有の要件を満たす必要があります。


どの制度を利用するかによって、必要な部屋数や面積、設備、改修内容が変わります。


物件を購入した後に制度を検討するのではなく、利用する制度を想定したうえで、必要な要件を満たせる建物かどうかを、契約前に建築の専門家と確認することが重要です。



3.COCO静岡の実例|改修費と工程に影響した確認ポイント


見えない部分の写真は補助金を受けるのに重要
後で見えなくなる部分の写真

COCO静岡の物件は、土地と建物の広さ、周辺施設、交通環境などを考えると、シニアシェアハウスに適した条件がそろった物件でした。


一方、シニアシェアハウスとして活用するためには大幅な間取り変更が必要で、当初の条件では、物件取得費と改修費を合わせた総事業費が想定予算を上回っていました。


そこで、計画している事業の内容を売主様へ説明したところ、その趣旨に共感していただき、価格交渉にも応じていただくことができました。


物件価格を抑えられたことで、必要な改修工事へ予算を配分し、事業化できる条件が整いました。


ただし、物件の条件がよく、購入前から計画を進めていても、既存建物の改修では、詳細な確認を進める中で費用や工程に影響する事項が出てくることがあります。


エレベーターの機種変更で、約30万円の増額と工程の遅れが発生


既存建物にエレベーターを設置する場合は、昇降路の幅や奥行きだけでなく、エレベーター下部のスペースなど、機種ごとに細かな設置条件があります。


COCO静岡では、エレベーター下部のスペースについて、詳細な現地確認と機種の確定に時間を要し、当初予定していた機種が既存のスペースに納まらないことが分かりました。


幸い、設置可能な別メーカーの商品が見つかりましたが、費用は当初の計画より約30万円増えました。また、エレベーター工事の完了がオープン予定日から約10日遅れ、入居前に予定していた見学会も遅れてしまいました。


着工前に増額が分かっていれば、ほかの工事項目を見直すなど、予算を調整する選択肢も取れたと思います。


この経験から、エレベーターのように費用と工程への影響が大きい設備については、計画初期から施工会社を交えて現場条件を確認し、設計側が確認期限を定めて、機種選定まで進めることが重要だと分かりました。


既存建物では、カタログ上の寸法だけで設備を選ばず、実際の施工条件まで確認したうえで、予算と工程を決める必要があります。


200㎡以下にするための減築範囲が、想定よりぎりぎりだった


COCO静岡では、住宅として使用されていた建物を寄宿舎へ用途変更するため、購入前から延べ面積を200㎡以下にする減築計画を立てていました。


ただし、購入前の調査では、軒先から外壁までの寸法を正確に実測できず、既存図面と現地で確認できる範囲をもとに、減築計画を検討しました。


購入後に正確な採寸と面積計算を行ったところ、軒先と外壁の位置関係が床面積の算定に影響し、200㎡以下に収めるための減築範囲が、想定よりもぎりぎりであることが分かりました。


結果的には計画どおり200㎡以下に収めることができましたが、寸法が少し異なっていれば、減築範囲を広げたり、希望していた間取りや部屋数を見直したりする必要があった可能性があります。


200㎡を超えるかどうかは、建築確認の手続きだけでなく、改修範囲や部屋数、事業予算にも影響します。


事業計画を左右する重要な面積条件については、可能な限り物件契約前に正確な実測と面積計算を行い、余裕を持った計画にすることが重要です。


補助金申請では、工事中の写真と事務局との連携が重要


COCO静岡では、居住サポート住宅の認定を受け、建物の改修に対する補助制度を利用しました。


建築関係の補助金では、申請書や見積書を提出するだけでなく、申請した工事が実際に行われたことを、写真によって確認できるようにする必要があります。


特に、断熱材、構造補強、配管、下地など、完成後には壁や床の中に隠れてしまう部分は、工事中に撮影しておかなければ、後から確認できません。


現在の居住サポート住宅改修事業の完了実績報告でも、改修前・工事中・改修後の写真が求められ、完成後に目視できなくなる断熱材や構造材などは、工事中の写真を添付するよう示されています。


実際に工事を行っていても、必要な写真が不足すれば、補助対象工事として確認できず、補助額に影響する可能性があります。


あすなろ設計事務所では、これまでにも建築関係の補助金申請を経験していたため、必要と思われる工事写真を多めに撮影し、交付事務局からの確認や追加資料の依頼にも対応しました。


それでも、対象となる工事や必要な撮影箇所について判断に迷う場面があったため、申請前から交付事務局と密に連絡を取り、対象工事、必要書類、撮影方法を確認しながら進めました。


補助金は、工事が終わってから資料をそろえるのではなく、設計、見積もり、申請、写真撮影、施工を一つの工程として管理する必要があります。


COCO静岡では、設備の寸法確認による費用増加や工程の遅れ、減築面積の細かな調整、補助金申請に必要な記録など、実際に計画を進めたからこそ分かった確認ポイントがありました。


一つひとつは対応可能な問題でも、物件を購入して工事が始まってから判明すると、予算や工程、事業計画全体に影響します。


物件購入前から建築の専門家が関わり、建物調査、設備の選定、行政確認、施工計画、補助金申請を並行して進めることが、想定外の費用や計画変更を抑えるために重要です。



4.物件契約前に建築の専門家へ相談する3つのメリット


物件契約の前に全体整理をして進めたCOCO静岡
物件契約の前に全体整理を

シニアシェアハウスの計画では、物件を購入してから建築会社を探すのではなく、候補物件を検討する段階から建築の専門家へ相談することが重要です。


物件価格や立地条件だけでは、その建物をシニアシェアハウスとして活用できるのか、必要な改修費を含めて事業が成り立つのかまでは判断できません。


物件契約前に建築の専門家が関わることで、主に次の3つのメリットがあります。


メリット1|希望する部屋数や暮らし方を実現できるか確認できる


建物の面積が十分にあるように見えても、柱や壁の位置、階段、廊下、水回りなどの条件によっては、希望する部屋数を確保できないことがあります。


個室を増やすことだけを優先すると、共用リビングが狭くなったり、トイレや洗面所が不足したり、入居者が移動しにくい間取りになったりする可能性もあります。


候補物件の図面や現地の状況を確認することで、必要な個室数と共用空間を確保できるか、シニアが安全に暮らせる動線をつくれるかを、物件契約前に検討できます。


シニアシェアハウスは、部屋数を確保するだけの計画ではありません。入居者同士が交流できる場所と、一人で落ち着いて過ごせる場所の両方をつくることが重要です。


メリット2|物件価格だけでは見えない改修費を把握できる


安い物件であっても、耐震補強、劣化修繕、断熱工事、水回りの増設、消防設備などが必要になれば、改修費が大きくなることがあります。


反対に、物件価格が少し高くても、建物の状態がよく、間取り変更や設備工事を抑えられる物件であれば、総事業費では有利になる場合もあります。


候補物件の状態と希望する改修内容を確認し、物件取得費と概算改修費を合わせて検討することで、購入後に予算が大きく不足するリスクを抑えられます。


物件の安さだけではなく、購入費と改修費を合わせた総事業費で判断することが重要です。


改修費の概算を把握したうえで物件を選べば、必要な工事に優先順位を付けたり、物件価格の交渉材料にしたりすることもできます。


メリット3|行政・消防・補助制度へ確認すべきことを早期に整理できる


シニアシェアハウスでは、建物の使い方によって、寄宿舎への用途変更や消防設備、避難経路などの確認が必要になります。


また、グループホームとしての指定や居住サポート住宅の認定、改修補助の活用を考える場合には、それぞれの制度に応じた面積、設備、運営体制などの要件があります。


建築の専門家が候補物件と事業内容を整理することで、建築行政や消防、補助事業の窓口へ何を確認すべきかが明確になります。


最終的な判断は、行政や消防などの関係機関が行います。しかし、確認すべき点を物件契約前に整理しておけば、購入後に大幅な計画変更が必要になるリスクを減らせます。


どの制度を利用するのか、どのような方を入居対象とするのかによっても、建築計画は変わります。


建物だけを先に探すのではなく、事業計画と物件選びを並行して進めることが大切です。


自ら運営しているからこそできる、設計・施工と運営準備の支援


COCO静岡には、一人暮らしを続けることをご家族は心配している一方で、ご本人は「まだ介護施設には入りたくない」と考えている方が入居しています。


施設に入るほどではないけれど、一人で暮らし続けることには不安がある。私たちは、そのような方が選べる住まいの選択肢は、まだ十分ではないと感じています。


シニアシェアハウスが地域に増えることには、大きな意味があると考えています。


ただし、社会的な必要性があるだけでは、事業を実現することはできません。物件選び、改修費、耐震性、用途変更、消防設備、補助制度などを整理し、建築計画と事業計画を並行して進める必要があります。


あすなろ設計事務所の強みは、建物の設計・施工だけでなく、自らCOCO静岡を計画・改修し、現在も運営していることです。


建築後の暮らしや運営まで経験しているからこそ、図面上だけでは分からない注意点や、完成後を見据えて計画段階から検討すべきことをお伝えできます。


シニアシェアハウスの設計・施工をご依頼いただく事業者には、COCO静岡で得た知見をもとに、開設準備や入居者を迎えるための運営体制づくりについても、実体験に基づいた実践的なサポートを提供します。


将来的には、同じ考えを持つシニアシェアハウスが地域に増え、それぞれが経験を共有しながら、入居者に提供する住まいやサービスの質を高めていくことを目指しています。


本気でシニアシェアハウス事業を検討している方は、物件を契約する前に、あすなろ設計事務所へご相談ください。


候補物件の図面や現地の状況を確認し、希望する計画が実現できるか、必要な改修内容と概算費用、行政や消防へ確認すべき点を、建築の視点から整理します。


物件を購入してから改修方法を考えるのではなく、事業の構想、物件選び、建築計画を同時に進めることが、シニアシェアハウス事業を実現するための第一歩です。


※建築基準法、消防法、福祉制度、補助制度などの適用条件は、建物の所在地、規模、用途、入居対象者、運営内容によって異なります。実際の計画では、関係する行政・消防・制度窓口への個別確認が必要です。




シニアシェアハウス事業を検討している方へ


候補物件を契約する前に、その建物で希望する部屋数や暮らし方を実現できるか、必要な改修費や法令上の 注意点を確認することが重要です。

あすなろ設計事務所では、COCO静岡の計画・改修・運営で得た経験をもとに、建築の視点から事業化の可能性を整理します。



候補物件が決まっている方、これから物件を探す方の どちらもご相談いただけます。



参考資料

本記事の法令・制度に関する内容は、以下の公的資料も参考にしています。


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